大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)7915号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕二、被告の責任について
被告が被告車を保有し、その運行供用者であることは自認するところである。そこで以下被告の免責の抗弁について判断する。
<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
(1) 本件事故現場は大阪府立茨木高校付近の道路上で、幅員11.8メートル、直線平たんでアスファルト舗装され、当時雨で路面が湿つていた。道路の両側には商店、住宅が並んでいるが、夜間は街灯もなく暗い。交通量は普通で車輛の速度制限は時速四〇キロメートルである。その他の状況は別紙図面のとおりである。
(2) 原告はかなり酒を飲んで酔つた状態で、現場の道路を西から東へ時速二〇キロメートルで進行し、岩井運送店西隣の玩具店あたりで後方からくる自動車をよけて道路左側に寄り、さらに進行していたところ降雨でうつむき加減になつていたため、岩井運送店前に駐車中のトラックに気づくのが遅れ、これを避けるべく右ヘハンドルを切つたが、トラック右後部角に自車の左ハンドルを衝突させて、その反動で原告は右側へ約三メートル余飛ばされて、頭を南側に足を北側に向けて転倒した。その間単車は7.7メートル前方のトラックの前部付近で倒れていた。
(3) 被告は事故現場の東約四〇メートル先のT字形交差点の南側を左折して西進して来たものであるが、右交差点付近および現場までの道路左側には二、三台の車が停車していたので、道路中央あたりを時速約三〇キロメートルの速度で通行した。その際道路右前方に駐車していたトラックを認めていたが、原告の単車を見ることができなかつた。そして、事故発生地点の手前約一〇メートルあたりで右トラックの後方から黒いものが飛び出して来たのを発見して、急ブレーキをふんで急停車したが、被告車の前部ナンバープレート右下角あたりで原告と衝突し、轢過するに至らなかつたが被告車の右前輪で原告の股を押しつけるようにして停車した。
被告は当時毎日自動車に乗り、現場付近はよく通行しており、被告車には事故直後の警察官の検査によると制動装置その他ハンドルに異常な点はなかつた。
<反証排斥>
被告が自動車の運転者として前方から自車の正面に飛び出してくる者があることを予想し、または周囲の状況から予想すべき場合(例えば道路を横断しようとする歩行者、自転車乗りの場合)これに対処しうる運転方法を取ることが要請されるが、本件の如く単車が駐車中のトラックの後方に衝突して、その反動で投げ出された者が自車の正面に転倒して来ることは稀有のことで、これを予想することは何人でも不可能である。従つて被告が本件事故現場の道路を進行するについて、かようなことを予測することはできないが、前方を十分注視して異常な行動が映じた場合において、直ちに事故に至るのを回避すべき義務がある。被告は事故発生地点の約四〇メートル先から左折して本件道路にさしかかり、しかも道路の両側に駐車中の自動車があり、道路中央あたりを時速約三〇キロメートルで進行し、前記岩井運送店前のトラックの陰になつている原告の単車を早くから発見することができなかつた点などについて過誤はない。原告の単車を認めたとしても、被告車の進行方法では、単車がトラックの横側を十分通過できる間隔(約三メートル)があり、別に危険を感ずることはないであろう。そして被告は約一〇メートル手前で原告が投げ出された姿を認めて直ちに急停車し、車体は僅かであるが左へ寄つている。時速三〇キロメートルの自動車が、雨で濡れた路面上を停止するのに約一〇メートルの距離はやむをえない距離である。すなわち被告が原告を認めてブレーキをふみ、これがきくまでのいわゆる空走時間のみで少くとも0.67秒程度を要し、秒速8.3メートルの被告車は5.56メートルの空走距離があり、さらに次の公式から制動距離を求めると、
:制動初速度
濡れたアスファルト舗装の場合摩擦係数が0.45ないし0.6であるから0.6としても5.9メートルを要する。(判例タイムズ二一二号二三二頁以下、車速の推定、制動距離に関する鑑定書、参考)従つて知覚から停止するまで11.46メートルの距離が生ずることになるが、急停車の場合右より多少反応時間が速くなるので短縮されるが約一〇メートルの距離以下で停止すべきことを求めるのも無理である。ながら停止距離が右一一メートル余以上に長くなれば、原則的に運転者に何らかの不注意がありうるが、そうでなければ不注意があるとはいえない。次に転把による回避の可能性であるが、本件では左転把の措置をとることが不可能とはいえない。しかし、距離、被告車の、速度の関係から事故の発生を回避しうるか甚だしく疑問であり、ことに原告が道路の南北に横たわる格好で転倒し車体下に身体が入つていることから、これを避けるため左転把をすれば相当急カーブにハンドルを切らねばならず路面の濡れていることを考えるとスリップしてかえつて危険と考えられる。また本件のような場合運転者としては、急ブレーキをかけるのが精一杯でハンドルを切る余裕がないのが通常で、左転把をすべきことを求めるのは酷であろう。そのほか被告車の速度、進行過程など運転方法について何らの不注意を認めることはできない。
一方原告は飲酒運転のうえ、前方をよく見ておらず誤つてトラックの右後部角に単車を衝突させた結果、被告車の進行してくる前方へ転倒していつたのであるから、自己に過失があることは明らかで、前記のとおり被告において事故の発生を回避する手段もないのであるから、本件事故は原告の一方的な過失によつて発生したものといわざるをえない。
なお被告車には制動装置、ハンドルなどには異常はなかつた。
してみると、被告には自賠法三条但書の免責事由があり、被告の抗弁には理由がある。(藤本清)